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社長さんの知恵袋 第8回 デザイナーからプロダクトメーカー(仮)へ(その3:完結編)2010年11月

f:id:fujita244:20130222125152j:plain飯野賢治さん)

追記:2013年2月22日

 20日に亡くなった飯野さんは、デザイナーとかプログラマを越えた「コンテンツメイカー」と呼びたい人ではないでしょうか。ご冥福をお祈りします。

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いい加減、このタイトルで書くのも辛くなってきました。

読んでる方はもっと辛いのではないかと思いますが、もう少しお付き合い下さい。

さて、これまで、第5回で「『プロダクツメーカー(仮)』という職分はデザイナーのものではないか」と問い、第6回で「デザイナーがマーケティングを内包していることを自覚した結果、『プロダクトメーカー(仮)』にならざるを得ない状況を招いている」と指摘しました。 そして第7回で「『デザインはマーケティング』であり、『デザインとはコミュニケーション』であるという認識がデザイナーに新しいポジションを与えている」とまとめました。

では、デザイナーという職種は、どこへ向かっているのでしょうか。

デザイナーを考えるために他の存在と比べてみたいと思います。

 

デザイナーとクリエイターとアーティスト

 

デザインという言葉は、設計や意匠と訳されますが、語源を調べるとラテン語のdesignare(示す,計画する)<de-[デー]+signare(印を付ける)(『外来語の語源』吉沢典男, 石綿敏雄著 角川書店, 1979)ということのようで、「線を引く」とか「印をつける」というような行為に方向性を加えたものと考えられていたのではないでしょうか。

であれば、「デザインする人」であるデザイナーは、「線を引く人」というだけではなく、むしろ「計画する人」であり、「行き先を示す人」と言えるでしょう。いわば、「形の体裁を整える人」というよりも、その製品の「あり方を示す人」であり、前回引用したスティーブ・ジョブズが語った意味で「デザイン」を行う人と言えそうです。

また、モノを作る人を表すときにクリエイターという言葉もあります。

和製英語かと思ったら外国でも通じるんですね。「創造主」の意味になるんじゃないかとヒヤヒヤしていたんですが、「モノを作る人」の意味で通じるみたいです。でも、かなり大層なものを作らないとクリエイターと名乗るのはやめたほうがいいのではないかと個人的には思います。

この言葉がやたらと使われるのはマスメディアにおいてですが、何かと「クリエイター」という言葉で「制作者」を指すのは、多分、「アーティスト」と区別したいからではないかと思っています。

マルチクリエイターなどという、さらに良く分からない言葉は、「何でも作れる人」というような意味で、「なんでも屋」みたいで嫌だなと私は思いますけど、まあ本人がいいならいいんでしょうけどね。

じゃ、アーティストとデザイナーは何が違うのか。

これはかなり明確に違うでしょうし、違わないといけないだろうと思います。その違いは、一言で言えば「クライアントが有るか無いか」。

実際のクライアント(施主とか広告主)がなくても、社会とか国家といった漠然とした、それでいて具体的な利用者がある場合は、アーティスではなく、デザイナー(クリエイターかもしれませんが)の出番ではないかと思います。

つまり、「誰かのため」がはっきりしているものは、アートではなくデザインではないだろうかということです。 そこを間違うと、どう使っていいか分からない公共物だの建築物が増えてしまうのではないでしょうか。もちろん公共空間におけるアートというのも必要です。でもそれは、「役に立たない」ことを前提として依頼すべきだろうと思います。

内心はデザイナーをクリエイターと呼ぶのははばかられる気がする私ですが、デザイナーがアーティストではないことについては、はっきりさせておきたいと思います。 アートはアーティストの物であるが、デザインはデザイナーの物ではない。それが最大の違いだと思います。

 

デザイナーとプログラマ

 

デザイナーが世界を分割しているとすれば、プログラマーは世界を再構築しているのではないでしょうか。

どちらも、ある技術で何かを囲い込んで、そこに新たな世界をつくっているという見方をすると共通点が多いと思うのですが、どうもこの二つの職人たちは仲が悪い。

デザイナーはビジュアルを感覚で提示するもので、プログラマーはコーディングを論理的に進行させるものという思い込みがあるようで、それがお互いの存在を相容れないものと思わせているようだ。

でも、どんなに素晴らしいコードで書かれているアプリケーションでも、デザインが未熟であればユーザーに世界観も優秀な操作性も伝えられないのではないだろうか。どんなに見た目が美しい画面があったとしても、コーディングが未熟であれば、役に立つアプリケーションとはならないように。

プログラマーが「世界をデザインする」場合、そこには「プログラミング言語」が必要であり、デザイナーが「世界をデザインする」場合、そこには「デザイン言語」が必要です。

昨今では、デジタル化の進展によって、デザイン言語のデジタル置換が進み、色や線は数値に置き換えられるようになりました。同様にデジタル化の進展はユーザーの大衆化につながり、プログラムを知らない人も扱えるようにユーザーインターフェイスを感覚的に変える必要があり、そうした事情からもプログラミングではオブジェクト指向が優勢になってきています。

こうした状況下で、広告とWEBアプリケーションとの連動やデジタルサイネージの増加もあって、ユーザー視点でのプログラミング言語デザイン言語の融合、実作業でのプログラマーとデザイナーの越境が必要になってきていると言えます。

すでに優秀なプログラマーはデジタル・アートとの接点もあり、ビジュアルの重要性を理解した活動を始めています。

一方、優秀なデザイナーは、デザイン言語からアプリケーションの世界に越境しています。 この動きは加速することはあっても、もとに戻ることはないだろうと確信しています。

印刷物中心の時代のコンテンツは、写植や製版などの印刷技術を理解したデザイナーの指示で専門の職人が文字や絵、写真などを印刷技術に沿った形状に整えなおし、製作され販売していました。

コンテンツを、多くの職人の作業分担で構築されていた印刷技術によって、プロダクトに変えていたわけです。

デジタルメディアが中心となっていく中で、コンテンツは、デザインとプログラムの双方を理解するクリエイターが、デスクトップでPCを駆使してテキストやビジュアルコンテンツを組み合わせ、アプリケーションやデジタルコンテンツを製作し販売するようになっていくでしょう。

つまり、コンテンツは個人の手でデジタルテクノロジーによって、最終プロダクトに変えることが可能になっているのです。 だからこそ、デザイナーとプログラマーの知識と技術が融合し、コンテンツをプロダクトに変える存在=プロダクトメーカーという存在が増えていくだろうと思います。

 

プロダクトメーカーとコンテンツメーカー

 

結局、プロダクトメーカーという座りの悪い言葉を置き換えるタンゴを思いつくことは出来ませんでした。エディターをデジタル時代にはキュレーターと呼ぶような言い換えがないものでしょうか?

キュレーションがエディットとどう違うのか、よくわかりませんが、どうもこのキュレーションとかキュレーターが定着するとも思えないので(佐々木俊尚さん周辺以外で)、もっと何かいい言葉がないか考えたいとは思っているのですが……。

さて、いまや、コンテンツを作る人が、自分の手でコンテンツを販売出来る状態のプロダクトに変えることも、デジタルテクノロジーの進展で自由にできるようになってきています。その最も旧進展しているのが電子書籍の世界ではないでしょうか。

村上龍さんが自分の電子書籍会社を作るとか、マンガ家の一部でも直接販売する動きが見られます。出版社を通さなくても自分の作品を読者に届けることが出き、しかも換金できる仕組みがそれほど多くの資本も機器もいらずに出来る時代。 そこで、デザイナーはプロダクトメーカーにならずにいられるでしょうか?

コンテンツメーカーがデザイナーを必要としたのは、デザイナーが印刷技術を知っていたからではなかったのでしょうか?

では、デザイナーがデジタルテクノロジーを知らないとすると、誰がデジタルコンテンツを作るのでしょうか。多分、その無知なデザイナー以外の誰もがつくることが出来る状況になっているなかで、無知なデザイナーに仕事はあるのでしょうか?

コンテンツメーカーがプロダクトメーカーにすぐにでもなれる時代に、デザイナーの必要性を声高に言うには、やはり優れたユーザーインターフェイスやユーザビリティ(使い勝手)を作るにはビジュアルの力が不可欠だ、という視点からではないでしょうか。

「デザインはコミュニケーションである」という言葉が、このユーザーインターフェイスやユーザビリティをいかにデザインするかという点で大きくなってきます。

デザイナーがプロダクトメーカーとして重要な役割をはたすべきだと考えるのは、デジタルコンテンツがプロダクトとして販売された際の一番の差別化ポイントが、ユーザーインターフェイスとユーザビリティだからです。

コンテンツが最も生きるユーザーインターフェイスを考えられるのは、やはり今後もデザイナーではないでしょうか。 そこで、デザイナーが活躍するだろうデジタルコンテンツの世界について、次回からは話を移していきたいと思います。

そのために、参考書を上げておきますので、よろしければお読みください。

ブックビジネス2.0

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電子書籍の衝撃

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