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社長さんの知恵袋 第7回 デザイナーからプロダクトメーカー(仮)へ(その2):2010年10月

f:id:fujita244:20130221184829j:plainスティーブ・ジョブズさん)

前回は体調不良で連載原稿を落としてしまい申し訳ありませんでした。 デザイナーという仕事が変わりつつあるという話をし始めたところまでになっていました。

デザイナーというのは、デザインをするヒトなわけですが、ではデザイナーが変わりつつあるのは、デザインが変わりつつあるからなのでしょうか?

この質問には、イエスであり、ノーであると言わないといけないかも知れません。回りくどくてすいません。

私は、デザインが意味するものは本質的な点では変わらないのだけど、歴史的な経緯の中でデザインの守備範囲が変わってきたのではないかと考えています。元来デザインとは総合的なものだったのが、他の仕事同様に工業化の進展に伴って分業化され、それが情報化・デジタル化の中で再び総合的なものになってきたのではないかと思っています。

もう一度確認のために、デザインとは何かを考えておきましょう。

 

デザインとは何か

 

「デザインというのはおもしろい言葉だ。外観のことだと思う人もいる。本当は、もっと深いもの、その製品がどのように働くかということなんだ。マックのデザインというのは、単にどう見えるかの問題ではない。もちろん、そういう面もあるけどね。でも一番大事なのは、どのように働くかということだ」

スティーブ・ジョブズは1996年のワイアード誌のインタビューで答えています(『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』78p)。

ここで言う「デザイン」は工業デザインのことですが、単にそれだけにとどまらない「デザイン」の本質に迫る言葉だと思います。ジョブズは、この言葉に続けて、こう語っています。

「いいデザインをしようと思えば、まず真に理解する必要がある。それが何なのか、心でつかむ必要があるんだ。そして、何かを真に理解するためには、全身全霊で打ち込む必要がある。かんでかんでかみ続けるんだ。すぐに飲み込んじゃいけない。でもそこまでのことをする人はめったにいないんだよね」

デザインが形の体裁を整えることではなく、真に理解することであり「心でつかむ」ことだという表現は、まさにジョブズらしいと言えます。

心で、そのプロダクトの本質をつかみ、それを目に見える形に変える。それが「デザイン」なのだ、ジョブズの言葉を読みかえると、アップルの製品が性能だけではなく「好き嫌い」のレベルで私たちの「心」をつかむのは、そうした「デザイン」のせいなのではないかと思わされます。

デザインという言葉を辞書で引けば「設計」とか「意匠」という言葉が出てくるでしょう。それだけを見れば、何かを形にする行為、何かを形にして見せる行為、が「デザイン」だと思ってしまいますが、その「形にする」際に、「何を」形にしているのか、そして、形にすることで「何を」しようとしているのでしょうか。 そこを考えないと、ジョブズの言う「どう働くか」という言葉には応えられない様に思います。

本づくりのプロといえば、書籍や雑誌の編集者という職業もあります。その編集者として私が尊敬する一人であるフクヘンこと鈴木芳雄さんは「デザインとはコミュニケーションです」と共著『編集進化論』のなかで「一言で言って」います(38p)。

実は、これ以上私なぞが何かを付け足す必要もないです。

鈴木さんが「デザインとはなにか? デザインはなぜ必要か? デザインになにができるか?」という産業革命以来、ずっと議論されてきた意味で「デザインとはコミュニケーションだ」と言い切ったのですからね。

しかし、それでは、この原稿の意味がなくなってしまうので、蛇足ながら説明しますと、「コンテンツ」や「プロダクツ」は、ある機能を持って受け取る人の役に立つ「はず」のものです。ところが、その機能や、もっと簡単にいうと「いいところ」が受け取る人に伝わらないと、「なんだダメじゃん」の一言で使われないどころか、捨てられたりします。

この「受取る人」に「いいところ」がわかるように伝えるために、わかりやすい形にする、という行為が「デザイン」であり、その「わかりやすいように伝える」のが「コミュニケーション」ではないでしょうか。

 

コミュニケーションとデザイン

 

「デザインがコミュニケーション」であるように、実は、広告や広報の世界では「コミュニケーションをデザインする」必要性が高まっています。 その辺の話を第2回の最後の方で書きかけて、参考書だけ紹介するにとどめてしまいました。この「コミュニケーションをデザインする」という流れが、デザイナーの役割をより高めていることもあわせてお話して置かなければならないことでした。

先程挙げた『編集進化論』のなかで編集者の未来を語る鼎談が掲載されていますが、その冒頭で「もう編集者はいらないんじゃないか」と思う理由に「最近のデザイナーやプログラマーは、ものすごく高い編集能力を持っている」から「(デザイナーが)ディレクションだけじゃなくて、ほんとに編集もできる」という実感をあげています(106p)。

そうだとすると、編集者もあがったりなわけですが、結局、優秀な編集者は優秀なデザイナーと仕事が出来る人なわけで、実際に、そうした「編集もできるようなデザイナー」に仕事が集中しているようです。

これは、デザイナーという「アイデアを形にできる人」(仲俣暁生)が、アイデアからやらないと「コミュニケーション」できない時代であることに気づいて、デザイナー自身が「コミュニケーションをデザインする」側に回っている証拠ではないでしょうか。

「デザインはコミュニケーション」であり、「コミュニケーションをデザインする」時代になったとすれば、デザイナーの役割や仕事範囲は大きく広がらざるをえないといえるでしょう。 しかも、デザインが必要な分野はデジタル化のために、リアルだけではなくネット上に広がっており、さらにパーソナルブランディングの必要性が高まり(第2回でふれました)、法人だけではなく個人にも広がっているわけです。

このあたりをうまく説明した本としては、ウジトモコさんの『売れるデザインのしくみ』があります。

「プロじゃなくても「デザインの正解」は導き出せます」という刺激的なキャッチの本なのですが、ぜひ読んでいただきたいです。

 

デザイナーのポジションとは

 

この本は「トーン・アンド・マナー」という広告業界で長く使われているけど、一般には知られていない言葉を使って、「デザインのトータリティ」の重要性が「ブランディング」につながるという話を分かりやすく書いています。 つまり、見た目のバランスが悪いと、中身がよくても理解されないという、恐ろしい話が如何に世の中のコーポレート・デザインとかビジュアル・アイディンティティという言葉のもとで起きているかという話です。

「デザインはコミュニケーション」だと思えば、行き当たりばったりでバラバラのデザインでロゴや商品パッケージを作らないでしょう?

 ということなんですが、その辺はウジさんが、前著『視覚マーケティングのススメ』で「デザイン」を「視覚マーケティング」と読み替えることで、マネジメント層に対して「デザインの重要性」への説得力を与えたように、この本で「デザインの正解」はポジショニングとトーン・アンド・マナーから導き出せるという「デザインをコミュニケーションする手法」を使って、「デザインは表面を取り繕うものではない」ことを説明してくれています。

さらにウジさんは本書のなかで著名なデザイナーであるポール・ランド氏が「デザインとはコンテンツとの関係性である」と説いた話を引用し(47p)、すべてのデザインに意味の有ること、デザインがマーケティングであることについて力説しています。

これは、ジョブズが「デザインとはその製品がどのように働くか」であるといったことと非常に近い面を感じます。表面ではなく本質をつかんで、それがわかるような形にすることそのものがデザインであり、それはビジネスの側面から見れば「マーケティング」に直結する話なのです。

この「デザインはマーケティング」であり、「デザインはコミュニケーション」であるという認識の広がりが、デザイナーに新しいポジション(本当は新しくもなんとも無くて、もともとそういう存在なのですが、いつの間にか分業に寄って忘れられていた)を与えているのではないか、と私は強く思うのです。 まだまだ話が遠いですけど、デザイナーが変わってきたという話は続きます。

 

 本の紹介

スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン

 

編集進化論

編集進化論

 

売れるデザインのしくみ

売れるデザインのしくみ

 

視覚マーケティングのススメ

視覚マーケティングのススメ