新宿三光町日乗

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【読書】本が読みたくなる書評だらけ:本棚から読む平成史

過日、東京大学駒場キャンパスを久しぶりに訪れた。

この会に出席するためだった。

https://www.instagram.com/p/Bz2LNC2gNbR/

本日のイベント

岡ノ谷一夫先生は、東京大学で言語の起源を研究する大学教授だ。

www.c.u-tokyo.ac.jp

縁あって、しばらくお世話になっていたのだけど、久しぶりにお目にかかるのがお祝いの席というのも、なんだか照れくさいものだった。

その席上で配られたのが、最新刊となるこの本だった。

本棚から読む平成史

本棚から読む平成史

 

 実は既に購入してあり、岡ノ谷先生にサインをいただこうと現地に持って行ったのだった。

サインもいただき、会場では久しぶりに会う方々と談笑でき、大変楽しかった。

思えば、岡ノ谷先生との出会いから、すでに10年を超えている。

この本を読見ながら、会での楽しかった時間を思い出し、また、岡ノ谷先生とのかつての会話をいくつか思い出していた。この本の中にある平成の最後の10年を考える章での岡ノ谷先生の論考の中には、あの頃を写すような断片がいくつか見られたからだった。

 

www.kawade.co.jp

この本は、平成という時代の終わりに仕組まれた読売書評委員による時代と本との関係を考える試みだ。

例えば、朝日新聞は、平成と本という同様の試みをこんな風にしてサイトで発表している。

book.asahi.com

アンケートをまとめるというのは、ある意味、まっとうなやり方だが、面白くはない。

しかし、書評委員による本のセレクトを座談会として挟みつつ、50冊の本を紹介していく1年半の連載をまとめた、この本の企みは、本とともに時代を浮かび上がらせるという意図を、より強く反映することができているように思う。

www.e-hon.ne.jp

「昭和」からの脱却を模索して始まった平成時代は、世界の多極化とグローバリズムの進展に直面する。そして訪れた3・11とそれ以後の世界へ…。政治学者・牧原出、ノンフィクション作家・梯久美子、生物心理学者・岡ノ谷一夫の三人が、平成31年間に刊行された名著50冊をジャンル横断的に紹介。書籍の問いかけに寄り添いながら、新たなる平成史を描く。読売新聞連載「平成時代名著50」待望の書籍化。

目次に、その意図が現れている。

第1章 「昭和」からの脱却を模索して―平成元~一〇年(一九八九~一九九八年)(平成元年(一九八九年) 辺見じゅん『収容所から来た遺書』
平成元年(一九八九年) S・W・ホーキング『ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで』 ほか)
第2章 世界の多極化と混迷を極める日本―平成一一~二〇年(一九九九~二〇〇八年)(平成一一年(一九九九年) 茨木のり子『倚りかからず』
平成一二年(二〇〇〇年) 畑村洋太郎『失敗学のすすめ』 ほか)
第3章 東日本大震災と新しい価値の胎動―平成二一~三一年(二〇〇九~二〇一九年)(平成二一、二二年(二〇〇九、一〇年) 村上春樹1Q84
平成二三年(二〇一一年) 星野博美『コンニャク屋漂流記』 ほか)
第4章 文化部記者が振り返る平成 

 平成を振り返るという企画は、いろいろな媒体で行われいて、例えば、現代的な角度だと、写真というのがある。

www.aflo.com

そこに溢れる映像は、どれも一目で時代を映している。しかし、深めてはくれない。

やはり、本は、そして本をめぐる書評がよければ、その本を通した時代への光の当て方がより深まり、映し出される時代のフラッシュバックとともに、個人的体験なども思い出させて、文字間、行間から溢れてくるものへの思いが止まらなくなる。

その本をどう読むか、その本を読んだ時代に何があったかが、この本の中で次々に紹介されていくのを読んで、平成の長さと短さを同時に感じた。

30年は、一つの時代というには短く、一人の人生にとっては長い。

その絶妙な期間であった平成が、昭和という多様で長い時代の影響を受けつつ、デジタル化への急激な切り替わりを反映した、見事なまでの時代の転換点であり、それが令和にどのような影響を与えながら終わったのか、ということを、その時代に発刊された本の内容からも知ることができる、見事な本だった。

紹介されている50冊の中で私が読んだ本は、実は1割程度かもしれない。

この30年に読んだ本が50冊以下だったわけではないが、どうも、こういうところに選ばれないような本ばかり読んでいたようだ。

 岡ノ谷先生は他にも書評委員を長く務められていて、こういう書評本もある。

脳に心が読めるか? ―心の進化を知るための90冊―

脳に心が読めるか? ―心の進化を知るための90冊―

 

 

他にも専門領域のことを一般向けに書いた本も多い。 

「つながり」の進化生物学

「つながり」の進化生物学

 

 

 

言葉はなぜ生まれたのか

言葉はなぜ生まれたのか

 

 

 

 

 

 

最後に、岡ノ谷先生のご専門領域の講演も貼っておく。

 

youtu.be