【書評】本が読みたくなる本:脳に心が読めるか?
書評というのは、本を評するわけですから、一般的には、面白いかどうかとか、読みに値するかどうか、などを読者に説明するものでしょうか。
今回ご紹介する本は、進化心理学者である筆者が新聞などに書いてきた書評をまとめた、いわば書評本。
この本が困った本で、筆者の手にかかると、どの本も魅力的で読みたくなる。
しかも、一つの本だけではなく、それに続けてこちらも読まないといけないなあ、という風に連鎖する。
それは、前書きにあるように、筆者の興味に沿って選ばれた本たちは、「「自分の心はどうできているか」という疑問の元に、本を読んでいる」という切り口で一貫しているから、筆者の興味の角度に魅せられた読者にとっては、あれもこれもと連鎖してしまうのだろう。
それにしても書評というのは大変な仕事だと思う。
筆者は書評を「読者の代わりにドーナツを味見をして、その穴の味について伝えるようなもの」とあとがきで記している。
穴の味なのかもしれないが、800〜900字で、その本の社会的位置付け、著者と筆者との距離、なぜ読んだのか、何を得たのか、そういう筆者の期待や読後感、これらをまとめ、しかも余韻を残して書くのは容易なことではない。
でも、筆者はこれに果敢に挑戦し、そして成功している。と思う。
筆者の専門は、動物行動学の分野で言語の進化そして心の起源に迫るものだ。
それもあって、「脳に心が読めるか?」という挑戦的なタイトルにしたのだろうと思うけど、副題の「心の進化を知るための90冊」という方が理解しやすい。
さらに言えば、人はなぜ言葉を必要とし、その言葉で何をしようとしているか、ということを本という痕跡(カタチ)から探り出す継続的研究なのかもしれない。
年末年始は本を読む機会が多いかもしれない。
そんな時に、この本を読んで、次に何を読むかのヒントにする、そんな使い方にふさわしい本だと思う。
岡ノ谷先生の著作は、他にもあって、そのどれも面白い。
科学的な背景を踏まえつつも、読み物としての楽しさを兼ね備えているので、そちらも是非。

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